書誌レビュー一覧 1件~1件(全1件)

イメージ

サマルカンドの秘宝

ジョナサン・ストラウド作 ; 金原瑞人, 松山美保訳. -- 理論社, 2003. -- (バーティミアス).
ISBN:4652077351
総合評価:

1

魔法と毒舌、止まらない冒険

魔法が支配する現代ロンドン──街灯も建物も、人々の生活も、すべて魔法使いたちの権力の下にある世界。そんな都市で、泣き虫だけれど負けず嫌いな少年ナサニエルは、自らの小さな正義と復讐心を胸に、危険な冒険へと足を踏み入れる。目標はただひとつ、邪悪なエリート魔法使いサイモンから〈サマルカンドの秘宝〉を奪い、復讐を果たすこと。しかし、未熟な魔法使い一人では到底敵わない。そこで呼び出したのが、皮肉屋で少し間抜けな妖霊、バーティミアスである。

バーティミアスは言葉の刃を自在に操る。ナサニエルの失敗や泣き顔に容赦なく毒舌を放ち、読者も思わず笑ってしまう。しかし、その笑いの裏には、数千年の知恵と経験が隠されており、彼がどれほど賢く、物事を冷静に見ているかがひしひしと伝わる。少年と妖霊、二人の凸凹コンビネーションは、まるで滑稽な舞踏のようだが、絶妙に息が合う瞬間にはページを握る手が止まらなくなる。

この物語のもうひとつの魅力は、600ページという圧倒的なボリューム感にある。魔法の世界の設定は緻密で、歴史、政治、都市の構造、魔法のルール、キャラクターの心情──そのすべてが巧妙に積み重なって、まるで魔法の図書館を一冊で巡るかのような充実感を味わえる。細部まで作り込まれた世界観は、ページをめくるたびに新たな発見をもたらし、読者は物語にどっぷり浸かってしまう。

読んでいると、勇気や力の価値は決して数字や強さだけで測れないことがよくわかる。未熟な少年が、妖霊という不思議な相棒とともに、知恵と工夫で困難を乗り越える姿は、ただの魔法の冒険以上の感動を与えてくれる。ナサニエルとバーティミアスのコンビを追いかけながら、笑い、ハラハラし、時に胸を熱くさせられる。

子どもから大人まで楽しめるユニークで知的な冒険譚であり、ページをめくるたびに魔法と毒舌と友情の余韻が心に長く残る。読み応えも十分で、充実したボリュームがあるため、読み終えた後には「もう一度最初から読み返したい」と思わずにはいられない。単なるファンタジーではない、夢中になれる新しい冒険のスタンダードである。


0人中、0人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。このレビューは参考になりましたか? はい いいえ