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あと少し、もう少し

瀬尾まいこ著. -- 新潮社, 2015. -- (新潮文庫 ; 10214, せ-12-3).
ISBN:9784101297736
総合評価:

1

メンバーの走っている姿に胸が熱くなる!!

「今年から顧問になりました上原です。陸上のことはわからないし、顧問をする力も足りないけれど、できる限りのことはやろうと思うので、よろしくお願いします」(p.10) 

陸上部の名物顧問だった満田先生が異動になり、頼りない美術の上原先生が顧問になった。部長の桝井、いじめられっ子の設楽、不良の太田、頼みを断ることが出来ないジロー、吹奏楽部でプライドが高い渡部、後輩の俊介。寄せ集められた6人と1人の顧問の先生で駅伝の県大会を目指す。

この本は区間ごとに語り手となる人物が変わり、それぞれの悩みや葛藤が描かれている。また、同じ場面が別の人の視点から描かれることで、互いにメンバーのことを思い合い、誰かの言動によって救われる人がいることが伝わってくる。そして、自分では気づけないその人の魅力を感じることができる。

設楽は、みんなに迷惑をかけないように自主練をしている努力家だった。太田はやる気がない様に見えて、誰よりも闘争心が強かった。ジローは走るのは早くないけれど、みんなの雰囲気を明るくしてくれる駅伝メンバーにとって必要な存在だった。渡部は誰よりも優しく、メンバーが落ち込んでいた時に寄り添っていた。俊介は桝井にあこがれて誰よりも桝井を観察していた。何事も完璧にこなす部長の桝井は、実はすごく不調で悩んでいたが、そのことをメンバーに隠して明るくふるまっていた。

私が、この物語で一番印象的だった登場人物は顧問の上原先生だ。上原先生は、陸上のことは何も知らなくて少し頼りないけれど、鋭い観察眼で生徒に寄り添っているからである。

設楽が不調で悩んでいた時に、「わかってるよ。設楽君一生懸命やってる。でも、私のことなんか怖くないでしょう?何が何でもなんとかしなきゃって思わないでしょう?去年との違いはそこだよ。設楽君はプレッシャーをはねのけようとする時に力が出る人だからさ」(p.62) 上原先生は設楽が不調の原因を見抜いていた。また、渡部を駅伝に誘ったときも「どうして必死で知的な雰囲気を出そうとしてるのかなって」(p.189)渡部が人前で自分をよく見せようとふるまっていたことを見抜いた。そしてこの一言をきっかけに渡部は駅伝に参加することになった。

この本の章が進む度に胸が熱くなり、それぞれの走者に「頑張れ!!」と叫んでいた。そんな魅力ある6人と1人の顧問の先生。それぞれが様々な思いを胸に駅伝大会に挑む。はたして県大会に出場できるのか。この本を読むとあなたも駅伝に参加してみたいと思うかもしれない。


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