二重人格といえば『ジキルとハイド』。こう連想する人も多いのではないだろうか。多くの作品の例えやサブカルチャーに登場する物であるが、名前だけは耳にしたことがあっても、読んだことがあるという人は多くはない。だからこそ、二重人格の代表である本作を読んでほしいと思う。19世紀のロンドンを舞台に、弁護士のアタソンが不気味な男・ハイドを追う物語である。ある日、アタソンは少女を踏みつけた醜悪な男ハイドが、慰謝料として友人であるジキル博士の小切手を差し出したという奇妙な話を聞く。時を同じくして、アタソンは立派な紳士であるジキルから、身元不明のハイドへ全財産を譲るという不可解な遺言状を託されていた。アタソンが不審に思う中、ハイドが老紳士を撲殺する凶悪事件が起きる。警察に追われるハイドは姿を消し、ジキルもまた自室に引きこもってしまう。異変を感じたアタソンがジキルの部屋の扉を打ち破ると、そこにはジキルの姿はなく、まだ温もりの残るハイドの遺体だけが残されていた。ジキルはどこへ消えたのか。そしてハイドの正体とは何なのか。本作の舞台は19世紀のロンドンである。ロンドンといえばビッグ・ベンや赤い2階建てバスといった華やかなイメージを抱くかもしれないが、本作は世界帝国として頂点にあった当時のイギリスの陰影を描き出すような、冷たく重苦しい雰囲気に包まれている。特に勧めたい点ととしては、本作が単なる怪奇小説ではなく、上質なホラーミステリーとして構成されている点である。アタソンが疑惑を深めていく中、ジキルとハイドの筆跡が「傾きが違うだけで全く同じである」という事実に気づく場面などは、背筋が凍るようなスリルがあった。また人間の二面性を描いた心理的な恐怖も、俗にいう『ヒトコワ』と呼ばれるような、現代にも通ずるスリルがあることも大きな魅力である。物語は終始アタソンの視点で進行し、終盤の約25ページに収められた2通の手紙によってすべての真相が明かされる。作品の醍醐味がその手紙の中に凝縮されているため、ここで詳しく触れられないのが非常にもどかしい。だが、この話はネタバレあらすじを見て完結するものではなく、自身で読み進めるからこそ深みが出るものだと思う。ぜひ自身の目で顛末を見届けてほしい。
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