書誌レビュー一覧 1件~2件(全2件)

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君は月夜に光り輝く

佐野徹夜 [著]. -- KADOKAWA, 2017. -- (メディアワークス文庫 ; [さ4-1]).
ISBN:9784048926751
総合評価:

1

空よりも儚く、月光よりも眩しい――そんな君と過ごす時間

月の光は、手が届きそうで届かない。それでも確かにそこにある。これは、そんな儚くも美しい恋を描いた物語__

主人公・岡田卓也は、病院で「発光病」という不治の病に侵された少女・渡良瀬まみずと出会う。発光病とは、死期が近づくほど体が淡く光を帯びる奇病。その名の通り、彼女はまるで夜空に浮かぶ月のように、静かに輝いていた。
外の世界に出ることが叶わないまみずは、卓也に「やりたかったこと」を託す。彼は彼女の願いを一つずつ叶え、それを彼女に伝えていく。しかし、それはただの代行ではなく、彼にとってもまみずにとっても、かけがえのない時間となっていく――。

「生きる」とは、どういうことなのか?
この物語が心に響くのは、単なる悲しい恋物語ではなく、「生きる」ことの本質を問う作品だからだ。
まみずは、残された時間がわずかであるにもかかわらず、驚くほどまっすぐに生を謳歌しようとする。その姿は、まるで限りある光を精一杯燃やす星のようだ。一方で、卓也は健康な体を持ちながらも、どこか冷めた日々を過ごしていた。彼女の言葉、笑顔、そして確かにそこにある「光」は、卓也の心をゆっくりと変えていく。まみずの「やりたかったこと」を叶えることは、卓也自身が「本当に生きる」意味を見つけていく旅でもあった。

作中で印象的なのは、まみずが発する「光」だ。病の進行とともに強くなるその輝きは、命そのものの美しさと儚さを映し出す。そして、卓也とまみずが交わす言葉のひとつひとつが、読者の胸を静かに締めつける。
人はなぜ、大切なものほど簡単に失ってしまうのだろう。なぜ、明日が当たり前にあると思ってしまうのだろう。この物語は、そんな当たり前の残酷さをそっと照らし、「今を生きる」ことの大切さを思い出させてくれる。

涙が止まらないような感動作を求めている人はもちろん、「自分の生き方」に少し迷っている人にも手に取ってほしい。
まみずの眩しいほどの強さ、卓也の成長、そして二人が紡ぐ時間。そのすべてが、読者に「明日が来ることは奇跡なのだ」と教えてくれる。

この切なくも美しい物語は、2019年に映画化された。スクリーンでも、まみずの儚い光は、多くの人の心を照らしたことだろう。
『君は月夜に光輝く』――それは、人生を優しく照らす一筋の月明かりのような物語だ。


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2

みんなが涙して、僕は泪する

みんなが涙する。
そういうキャッチコピーが世の中にはびこっている。
そう紹介するのってすごく簡単なのだと最近思った。
多くの人が失うことを知っていてそれに思い入れがあればあるほど感情を揺さぶられる。
こんなに冷めている書き出しだが、この作品で私は涙をこぼした。
冷めた目で見ていても大切な人が死ぬのは心が動くのだ。けれど、そのみんなが涙する感情は同じなのだろうか。
みんなが涙するからと言って全員の感想は同じなのか。
そう考えるようになった。
この物語は死期が近いクラスメイトの願いを主人公である「僕」がかなえていくという物語だ。
その「僕」の姿に私は共感した。
生活に侵食してくるのだ。その人が。だんだんその人をベースにして物事を考えるようになって。
どんなタイミングでもその人が浮かぶ。それが嫌ではなくむしろ心地よくなる。
その感覚を知っている。
それを一般化する言葉に当てはめてしまうのは違う。この感情は「僕」のもの、そして私のものだ。
みんなが涙したからってそれがいいものじゃない。
そうだけど、私はこれをいいものだと思う。


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