月の光は、手が届きそうで届かない。それでも確かにそこにある。これは、そんな儚くも美しい恋を描いた物語__
主人公・岡田卓也は、病院で「発光病」という不治の病に侵された少女・渡良瀬まみずと出会う。発光病とは、死期が近づくほど体が淡く光を帯びる奇病。その名の通り、彼女はまるで夜空に浮かぶ月のように、静かに輝いていた。 外の世界に出ることが叶わないまみずは、卓也に「やりたかったこと」を託す。彼は彼女の願いを一つずつ叶え、それを彼女に伝えていく。しかし、それはただの代行ではなく、彼にとってもまみずにとっても、かけがえのない時間となっていく――。
「生きる」とは、どういうことなのか? この物語が心に響くのは、単なる悲しい恋物語ではなく、「生きる」ことの本質を問う作品だからだ。 まみずは、残された時間がわずかであるにもかかわらず、驚くほどまっすぐに生を謳歌しようとする。その姿は、まるで限りある光を精一杯燃やす星のようだ。一方で、卓也は健康な体を持ちながらも、どこか冷めた日々を過ごしていた。彼女の言葉、笑顔、そして確かにそこにある「光」は、卓也の心をゆっくりと変えていく。まみずの「やりたかったこと」を叶えることは、卓也自身が「本当に生きる」意味を見つけていく旅でもあった。
作中で印象的なのは、まみずが発する「光」だ。病の進行とともに強くなるその輝きは、命そのものの美しさと儚さを映し出す。そして、卓也とまみずが交わす言葉のひとつひとつが、読者の胸を静かに締めつける。 人はなぜ、大切なものほど簡単に失ってしまうのだろう。なぜ、明日が当たり前にあると思ってしまうのだろう。この物語は、そんな当たり前の残酷さをそっと照らし、「今を生きる」ことの大切さを思い出させてくれる。
涙が止まらないような感動作を求めている人はもちろん、「自分の生き方」に少し迷っている人にも手に取ってほしい。 まみずの眩しいほどの強さ、卓也の成長、そして二人が紡ぐ時間。そのすべてが、読者に「明日が来ることは奇跡なのだ」と教えてくれる。
この切なくも美しい物語は、2019年に映画化された。スクリーンでも、まみずの儚い光は、多くの人の心を照らしたことだろう。 『君は月夜に光輝く』――それは、人生を優しく照らす一筋の月明かりのような物語だ。
|