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レモンパイはメレンゲの彼方へ

もとしたいづみ著. -- ホーム社, 2016.
ISBN:9784834253139
総合評価:

1

No.44 読むほどお腹が空いて、食べるほど本が恋しくなる。

本にも賞味期限があると思ったことがある。子どものころ夢中になった物語は、大人になれば色褪せてしまうものだと。

けれど、それは少し違った。

本書は、絵本作家が、さまざまな物語に登場する「本のなかのおやつ」をめぐって綴ったエッセイだ。

懐かしい味から、実際には食べたことのない不思議な食べものまで、本のページに登場するおやつをひとつずつ取り上げ、その味や姿、そこから広がる物語の世界を楽しんでいく。

物語は古くなっても、その中で食べていたおやつだけは、不思議なくらい鮮やかなまま残っている。

ホットケーキの湯気。
レモンパイの甘酸っぱさ。
絵本の中で頬張るクッキーや、名前も知らない不思議なお菓子。

そこに描かれているのは、単なる「おいしそうな食べもの」ではない。

そのおやつが登場する物語や、食べる人物のこと、そしてそれを読んだときの自分の記憶までが、ひとつのお皿の上に盛りつけられていく。

読み進めるうちに気づくのは、おやつそのものではなく、そのおやつを囲んでいた時間のほうが、ずっと大切だったということだ。

温かい台所。
ページをめくる手。
眠る前に読んでもらった一冊。

思い出は、いつも何かを食べている。

私自身、本に出てくる食べものが好きだった。

母に読んでもらいながら「どんな味なんだろう」と想像して、現実では食べられないことが少し悔しくて、それでもページをめくるたびに、その味を勝手につくりあげていた。

今思えば、本を読んでいたというより、物語を味わっていたのかもしれない。

この本は、「読んだら食べたくなる、食べたら読みたくなる」という言葉がぴったりの一冊だ。

物語の中のおやつは、お腹ではなく、記憶を満たしてくれる。

読み終えたあと、本棚を眺めていた。

あの物語のジャムパン。
あの絵本のビスケット。
あの小説のスープ。

忘れていたはずなのに、ちゃんと心のどこかに残っていた。

そういえばあの時母と作ったケーキは絵本のものには程遠かったが、今でも覚えている。

本は、物語だけを閉じ込めているわけじゃない。

ページのあいだには、そのときの季節や匂い、そして「おいしい」という小さな記憶まで、そっと挟まれているのだと思う。

レモンパイを探してページをめくったら、最後に見つかったのは、昔の自分だった。


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