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本にも賞味期限があると思ったことがある。子どものころ夢中になった物語は、大人になれば色褪せてしまうものだと。
けれど、それは少し違った。
本書は、絵本作家が、さまざまな物語に登場する「本のなかのおやつ」をめぐって綴ったエッセイだ。
懐かしい味から、実際には食べたことのない不思議な食べものまで、本のページに登場するおやつをひとつずつ取り上げ、その味や姿、そこから広がる物語の世界を楽しんでいく。
物語は古くなっても、その中で食べていたおやつだけは、不思議なくらい鮮やかなまま残っている。
ホットケーキの湯気。 レモンパイの甘酸っぱさ。 絵本の中で頬張るクッキーや、名前も知らない不思議なお菓子。
そこに描かれているのは、単なる「おいしそうな食べもの」ではない。
そのおやつが登場する物語や、食べる人物のこと、そしてそれを読んだときの自分の記憶までが、ひとつのお皿の上に盛りつけられていく。
読み進めるうちに気づくのは、おやつそのものではなく、そのおやつを囲んでいた時間のほうが、ずっと大切だったということだ。
温かい台所。 ページをめくる手。 眠る前に読んでもらった一冊。
思い出は、いつも何かを食べている。
私自身、本に出てくる食べものが好きだった。
母に読んでもらいながら「どんな味なんだろう」と想像して、現実では食べられないことが少し悔しくて、それでもページをめくるたびに、その味を勝手につくりあげていた。
今思えば、本を読んでいたというより、物語を味わっていたのかもしれない。
この本は、「読んだら食べたくなる、食べたら読みたくなる」という言葉がぴったりの一冊だ。
物語の中のおやつは、お腹ではなく、記憶を満たしてくれる。
読み終えたあと、本棚を眺めていた。
あの物語のジャムパン。 あの絵本のビスケット。 あの小説のスープ。
忘れていたはずなのに、ちゃんと心のどこかに残っていた。
そういえばあの時母と作ったケーキは絵本のものには程遠かったが、今でも覚えている。
本は、物語だけを閉じ込めているわけじゃない。
ページのあいだには、そのときの季節や匂い、そして「おいしい」という小さな記憶まで、そっと挟まれているのだと思う。
レモンパイを探してページをめくったら、最後に見つかったのは、昔の自分だった。
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