書誌レビュー一覧 1件~2件(全2件)

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京都寺町三条のホームズ

望月麻衣著. -- 双葉社, 2015. -- (双葉文庫 ; も-17-01).
ISBN:9784575517750
総合評価:

1

探偵と弟子、その距離は一歩。けれど、その一歩が永遠に遠い

京都の骨董店「蔵」には、今日もまたひとつの“謎”が持ち込まれる。
古い掛け軸、割れた茶碗、時には人の心の奥底までも——。
その静かな空間で、淡々と美を語りながら真実を見抜く青年・清貴。
彼のそばで弟子として、少しずつ大人になっていく女子高校生・葵。
本書は、ただの推理小説でも、ただの恋愛物語でもない。
それは、人と人の“心の距離”を繊細に描いた、和の香り漂うヒューマンミステリーである。

この作品が特別なのは、犯人を暴くことよりも「人を理解する」ことを大切にしている点だ。
清貴の推理は鋭いが、決して冷たいものではない。
美を愛し、真実を見抜くそのまなざしは、同時に“他人を許すためのまなざし”でもある。
嘘を暴いて終わりではなく、嘘の裏に隠された痛みや願いにそっと触れる——
そこに、京都の静かな時間と人の優しさが流れている。

一方で、葵の存在は物語にささやかな灯りをともす。
彼女はまっすぐで、不器用で、でも決して諦めない。
清貴への憧れと恋心が混ざり合い、いつしかそれは推理よりも深い問いへと変わっていく。
「人を好きになるって、どういうことだろう。」
そんな純粋な疑問を、古都の風景がやさしく包み込む。

読んでいると、不思議と心が静かになる。
寺町通りの石畳を歩く足音、夕暮れに差す光、湯呑みの湯気——
一つひとつが丁寧に描かれ、まるで時間そのものが緩やかに流れていくようだ。
推理のスリルも、恋の切なさも、どちらも派手ではない。
けれど、ページを閉じたあとに残る余韻は、まるで古い香のように長く漂う。

『京都寺町三条のホームズ』は、
嘘を暴く物語ではなく、“心をほどく”物語である。
そしてその温度の中で、恋がそっと息をしている。


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2

今度のホームズは鑑定士?

この本は主に日本の古都京都を題材にしており、京都で起きる様々な依頼を見習い鑑定士で、ホームズと呼ばれている。家頭清貴が謎を解くというストーリーになっています。作者の望月麻衣さんはもともと北海道出身で現在は京都に住んでおり、京都を題材にした小説を何冊か発行しており、どの作品も実際に京都に住んでいるからこそ伝えられる魅力的な作品ばかりです。
舞台は京都寺町三条の蔵というアンティークショップに訪れた女子高生を主軸に進んでいきます。そこのオーナーの孫の家頭清貴は、ホームズと呼ばれており本人は苗字が家頭だからと否定するが、アーサーコナンドイルの作品に出てくるホームズのように頭の回転が早く女子高生が、蔵に訪れた理由を一目でみぬいてしまします。そんなホームズの最初の物語となっています。
私がこの本に出合ったのはシャーロックホームズが大好きな私が、お店の検索欄で見慣れないホームズのシリーズがあったのがきっかけでした。この物語自体はアーサーコナンドイルのホームズを模して作っている訳ではないのですが、作品自体は芸術と京都、さらに謎の要素まであり、大変楽しめる作品となっております。


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