川端康成の四十年以上にわたって書き続けられた掌編小説122編をまとめた本書。皆さんは題にある「掌」の文字、そして短編小説よりも更に短い「掌編小説」と聞いてどのような印象を覚えただろうか。恐らく、非常に短く読みやすい、まさに掌サイズに収まるようなコンパクトな本だと思った方もいるのではないだろうか。私も本書を手に取ったきっかけは、そんな軽はずみな気持ちだった気がする。もっとも、今では覚えていない。なぜなら、一つ一つの作品が掌ほどの小さい世界どころか、長編小説にさえ匹敵するような世界を持っており、その深みから抜け出せなくなって久しいからである。例えば、第78話『化粧の天使たち』。掌編小説集に収録されている掌編小説集たるこの作品には、どこか不穏な恋愛譚が収録されている。好きな娘が売られていく『薬』。自分と好きな娘の思い出の古傘がゴミのように捨てられている『雨傘』など。1話あたり約6行、長くてもせいぜい1ページほどにしかならないにも関わらず、さながら夜ドラのような、深くドロドロとした世界を演出しているのである。特に私が『化粧の天使たち』の中で好きなのは、『花』である。女が別れる男に花(曼珠沙華)の名を一つ教え、毎年その花が咲く度に自分を思い出させようとする。さながら花の亡霊になるとでも言おうか。たったの5行しかない作品であるにも関わらず、女の力強さや執念深さが伝わり、非常に印象に残った。このように、「掌」という軽い文句で誘っておいて、いざページを繰ると鮮烈な情景を読者の脳髄に植え付けて離さない。本書の根底には、そんな毒がある。面白い、だけど恐ろしい。その様は、まるで球根に毒を仕込む曼珠沙華のようでもある。さて、このレビューを以て、私からも皆さんに本の名前を一つ教えることになった。これで皆さんにも、ふとしたきっかけで本書を思い出していただけるようになっただろうか。もしそうなったのなら、思い出した時分にぜひ読んでみてほしい。
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