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川のほとりに立つ者は

寺地はるな著. -- 双葉社, 2022.
ISBN:9784575245721
総合評価:

1

見えないからこそ、寄り添おう

 目に見えるものがすべてではない。
 使い古された言葉だが、実際のところ見えるもののみで判断してしまうことが多い。本書はその風潮に一石を投じる物語である。
 
 カフェの店長である清瀬は、松木という男と付き合っていた。しかし松木の部屋から幼児と思われる人物の書いた手紙を見つけてしまい、浮気を疑った清瀬は家を飛び出してしまう。その後連絡は取り合っていたものの、コロナが流行してしまい二人は会えずにいた。
 少しコロナが収まってきた頃、松木が友人の岩井と殴り合った末に、緊急入院したという連絡が入る。再会が予想外の展開で果たされ、動揺する清瀬だったが病院に足を運んだ。そこで出会ったのは、岩井の婚約者の天音という女性であった。
 殴り合いの一部始終を見ていた天音は、悪いのは松木だと話して泣き出してしまう。「松木は悪くない」と胸を張って答えることのできなかった清瀬は、付き合っていたのに松木のことを何も知らないと悔やむ。
 松木を知るために、彼の日記を読んでいくにつれ、松木を含め清瀬の周りの人々の隠された事実についても知ることになる。

 ADHD。ディスレクシア。家庭環境。
 この3つは本書の中でに登場する登場人物がそれぞれ抱える問題である。目には見えないからこそ他人には気づかれずらく、理解もされづらい。本文中には「川のほとりに立つ者は、水底に沈む石の数を知り得ない。」(p200)という一文がある。川底の石の数を知るには川を覗くという動作をしなければならないのと同じように、人間関係においても、相手のことを知ろうと努力しないと本来の姿を知ることはできないということを伝えている。
 
 この3つの問題に加え、コロナ渦など現実世界にリンクした物語で、自分の知らぬところで実際にあった話なのではないかと思わされる。

 これは他人事ではなく、あなたにも起こるかもしれない物語。


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