なぜガチャガチャが好きなのか。理由を聞かれて戸惑った。考えたことがなかったのだ。好きだから好きといったところか。自宅にはガチャの筐体、ガチャの筐体を模したリュック、ショーケース。気づいたら空カプセルでカプセル風呂に浸かれる程、私はその魅力に憑かれていた。そんな暮らしの中、日本ガチャガチャ協会員でもある私としては見逃せない1冊が書店に並んだ。それが本書である。何せ著者は日本ガチャガチャ協会代表理事の小野尾勝彦氏。ガチャガチャの日本史に間違いなく名を刻むその御方である。刻まれないなら私が刻ませていただく。販売当日、書店の山から「保存用」、「サイン本用」、「普段使い用」の3冊をとる。ガチャガチャビジネス初の解説書であろう。
610億円市場まで拡大したガチャガチャは現在進行形で急成長している。「ガチャガチャ=子ども向け」という印象があるかもしれないが、実情はかなり異なる。ターゲットが変化すればコンテンツも合わせて変化する。「キンケシ」「コップのフチ子」とブームを繰り返す度に市場の色も変化した。そもそもガチャガチャはどこから来てどこへ行くのか。誰が作って誰が売っているのか。こんなにも私たちの生活と身近であるにも関わらず謎に包まれている。まるで“筐体の中身“のようにブラックボックスとなっていたのである。そんな業界の裏側をクリエイター、メーカー、バイヤーなどの様々な視点から語られる。
特に印象深いのはやはり「ガチャガチャの魅力とは」という議題。私のように「ガチャガチャ」という営みごと愛してはおらずとも、ガチャガチャがあったら何があるのか気になって覗く人は多いだろう。“筐体の横から中身を覗き見する”ように。しかし、何がいいかと理由を聞かれて答えられる人は少ないであろう。
しかし本書を読んだ私ならば結論に辿り着けた。それは「一期一会の出逢い」である。 「再生産は基本的になし。見かけて欲しくなったらその場でゲットしないと永遠に入手不可能」(p.53) こうあるように、店先で会ったガチャガチャにまた次会える保証はどこにもないのだ。刹那的な欲求を存在として受け入れてくれる。ただし、「大ヒット」すればまた会える。これには凹凸で歪んだ愛情を持たざるを得ない。“ガチャガチャのハンドル”のように。一種の「推し活」と称してもよいだろう。実際に透明なポーチやカラビナでオリジナルのキーホルダーを作る『ガチャ活』も流行した。また、立地によって品揃えも違えば、筐体内に残っているラインナップも違う。人気商品ともなると半日で売り切れるなんてこともザラである。当然、そのラインナップからお目当ての一つを出したりコンプリートができたりするとも限らない。「可愛さ余って憎さ百倍」をこれほど瞬間的に感じさせるものが他にあるだろうか。筐体の前に立ち、心が動いたその瞬間、私たちの掌には100円玉が握られていなければならない。
とは言え、ここまでガチャガチャについて知ることに何の意味があるのか。そんな疑問に対しても本書はしっかり応えてくれている。昭和、平成、令和と日本の約60年間廃れることなく、続いてきたこの不思議なビジネスには目を見張るものがあるはずだ。
幸福な日々にガチャガチャ。集客にガチャガチャ。町おこしにガチャガチャ。環境問題にガチャガチャ。「ガチャガチャがある国は平和です」というのがガチャガチャ協会の合い言葉。ガチャガチャとは文化だ。ガチャ在るところに笑顔在り。これまでも、これからもガチャガチャを街中で見られるように。ガチャガチャがある当たり前を世界中に広められるように。そんな願いの“詰まっている”この「バイブル」をぜひ“回し”読んでほしい。
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