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【名無(ななし)】
名詞。
名前がないために、「なんとなく」で済まされてきたもの。
そういうものは、意外と多い。
「あれ、なんて言うんだっけ。」
思い浮かべられるのに、呼ぶことができない。
説明はできるのに、言葉だけが見つからない。
そんな日常の"取りこぼし"を集めたのが本書である。
集合写真で欠席した人のために空けられた、あの少しだけ不自然な空間。
思わず「あるある」と笑ってしまうのに、誰も名前を知らない現象。
この本は、そんな"名無し"たちを辞典という形で採集している。
ページをめくるたび、「こんなものまで見つけていたのか」と驚かされる。
でも、一番驚いたのは、その言葉ではなかった。
読みながら、気づけば私も名前をつけ始めていたことだ。
【読書迷子(どくしょまいご)】
名詞。
本屋で目的の一冊があったはずなのに、気づけば何冊もの背表紙に寄り道し、最初に探していた本を忘れてしまう現象。
こんな言葉があってもいいのかもしれない。
そう思えた瞬間、この本は辞典ではなくなった。
「読む本」から、「参加する本」へと変わったのだ。
考えてみれば、名前をつけるという行為は、「見つける」ということに似ている。
昨日まで背景だったものが、言葉を与えられた瞬間、急に輪郭を持ちはじめる。
世界が変わるわけではない。
ただ、自分の見え方が少しだけ変わる。
その変化が、なんだかうれしかった。
読み終えたあと、駅のホームでも、教室でも、コンビニでも、「これにも名前があるのだろうか」と考えてしまう。
そして、もしまだ名前がないのなら、自分でつけてみたくなる。
この本が教えてくれたのは、新しい言葉ではない。
「名前は、見つけるものでもあるけれど、つくるものでもある」ということだった。
【無名発見症(むめいはっけんしょう)】
名詞。
本書を読み終えたあと、これまで見過ごしていた「名前のないもの」に気づき、つい名前をつけたくなってしまう現象。
※一度発症すると、日常のあちこちに潜んでいる「まだ名前のないもの」に敏感になる恐れがある。
※現在のところ、有効な治療法はない。
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