書誌レビュー一覧 1件~1件(全1件)

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春琴抄

谷崎潤一郎 [著]. -- 改版. -- KADOKAWA, 2016. -- (角川文庫 ; 19801, [た-77-2]).
ISBN:9784044001292
総合評価:

1

籠の鶯、目になる雲雀

本作は薬種商の生まれである盲目の少女、鵙屋琴(春琴)と春琴の家へ丁稚として仕えている佐助の主従による歪な愛を描いた作品である。
句読点を極端に絞った独特な表現技法が用いられており、ストーリーだけではなく作品全体の表現方法も考察の余地がある。
また、本作は被虐と嗜虐を描いた作品として有名な耽美派小説である。しかし私は、世に言う典型的なマゾヒズムとは違い、春琴の虐待に佐助が愉悦を感じていないというところがポイントであると考える。同著者の『金と銀』では男主人公がヒロインに罵られそれを喜ぶような描写があったり、本人が自分はマゾヒストだと告白するような場面さえある。対して本作ではそれらの描写がなく、どちらかといえば耐えているという印象が大きい。春琴にどれだけ虐げられても離れなかった佐助には狂気すら感じるが、いじらしくも思う。このような繊細な人物描写と関係性が私が本作を好ましく思う理由である。なぜ佐助は春琴の元を離れようとしなかったのか、ぜひ読んで二人の蜜月を覗いてみて欲しい。


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