書誌レビュー一覧 1件~3件(全3件)

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

桜庭一樹 [著]. -- 角川書店, 2009. -- (角川文庫 ; 15565 ; さ-48-3 . Sakuraba Kazuki collection).
ISBN:9784044281045
総合評価:

1

甘い弾丸は心を揺らす

日本推理作家協会賞や直木三十五賞などを受賞した桜庭一樹さんがおくる、甘くて痛い友情を描いた小説である。


主人公のなぎさの通う学校に突如転校してきた不思議な少女藻屑。藻屑は自分が人魚であると主張したり、自身の痣を海の汚染のせいだと言う。現実主義のなぎさはそんな正反対な藻屑を最初は疎ましく思っていたが、どこか魅力的な藻屑に惹かれていく。そして藻屑の抱えている問題がどんどん明らかになっていって…

この本の最大の特徴は最初に結末が書かれていることである。しかも、それはとても残酷で悲しい結末だ。そのため、2人の少女がぶつかり合いながら絆を深めていく様子を、読者はただ見ていることしかできない。最悪の結末へ物語が向かっていることを知りながら読むのは、中々に耐え難いものがある。

また物語中にはストックホルム症候群や虐待などの社会問題が出てくる。現代社会の問題を提示すると共に、それらに巻き込まれてしまう子供たちの様子が鮮烈に浮かび上がってくるだろう。何の力も持たないつまり、実弾であるお金を持っていない子どもたちには為す術なく、もがくしかない。そんな状況に胸が締めつけられる。

読み終わった時にもう一度読むと、見方や感じ方が変わる本。読む人によって何を感じたかが大きく異なるので、友達などと感想を交換し合うのもこの本の楽しみ方の1つだと思う。実際、友達と意見交換をした際に印象に残った部分が全く異なっていて驚いた。

13歳の少女藻屑が必死に撃ち続けた「砂糖菓子の弾丸」。この本では「実弾」はお金だと提示している。しかし、私は他の意味も含まれていると考えている。あなたも甘い弾丸が本当に「実弾」ではなかったのか、確かめてみませんか?


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2

こころ撃ち抜く甘くて苦い物語

学歴フィルター。就職活動。人間関係。締切。ビジネスマナー。会議。ES。実力主義。
3年生になった途端、本格的にモラトリアム期間を終わらせることを求められ始めた。友人との会話も前よりずっと現実を見据えた話題が多い。私は今、おとなとこどもの狭間にいるのだと思う。

本書も、おとなとこども、あるいは現実と空想の狭間に揺れる人々を描いた物語だ。
主人公の山田なぎさは中学2年生。訳アリの家庭から逃れるために一刻も早く社会に出て、お金という「実弾」を手に入れようと、まだこどもながら自衛官を志望していた。そんななぎさは都会からの転校生、海野藻屑と友達になる。なぎさとは対照的に空想の世界で生きる藻屑は、自分は人魚であり、父親に殴られてできた痣は海の汚染によってできたものと主張する…。

現実を見据えて「実弾」、つまり生存に直接関わるような武器を手に入れようとするなぎさと、「砂糖菓子の弾丸」を使って、空想の世界の中で周りの悲惨な出来事をどうにか飲み込んできた藻屑の対比。ふたりとも同じ「生き抜くこと」を目的にしているからこそ違いが際立つ。面白さ、痛々しさ、苦さ、美しさ―作品の魅力はふたりの在り方の違いに詰まっている。

最終的にふたりは、おとなになるかこどもでいるか選択を迫られることになるが、私自身、未だにおとなになることとこどもでいることのどちらが正しいのか、なぎさと藻屑のどちらに感情移入していいのかわからない。

でもいつかは私もおとなになる日が来る。砂糖菓子の弾丸ではなにひとつ撃ちぬけないという、残酷な現実を知るかもしれない。
だからあえてその時、もう一度ページをめくりたい。「実弾」を手にした私は本書を読んで何を思うのだろう。
同じように狭間でもがく彼女らに撃ち抜かれた心が、読み終えた後の衝撃がどう変わっていくのか。定期的に読み返したい作品。


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3

好きって絶望だよね

悲しい話なのに綺麗な話。桜庭ファンになりました。そんな一冊。


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